No Pace Like London & The Barber and His Wife
ロンドンのような場所は無い & 理髪師とその妻

A street by the London docks.
A small boat appears from the back.
In it are SWEENEY TODD, ANTHONY HOPE and the pilot.
ANTHONY is a cheerful country-born young ship's first mate with a duffel bag slung over his shoulder.
TODD is a heavy-set, saturnine man in his forties who might, say, be a blacksmith or a dockhand.
There is about him an air of brooding, slightly nerve-chilling self-absorption.

ANTHONY :
(Sings)
I have sailed the world, beheld its wonders
From the Dardanelles
To the mountains of Peru,
But there's no place like London!
I feel home again.
I could hear the city bells
Ring whatever I would do.
No, there's no pl--

TODD :
(Sings grimly)
No, there's no place like London.

ANTHONY :
(Surprised at the interruption)
Mr. Todd, sir?

TODD :
(Sings)
You are young.
Life has been kind to you.
You will learn.

(They step out of the boat, music under)

It is here we go our several ways.
Farewell, Anthony,
I will not soon forget the good ship Bountiful nor the young man who saved my life.

ANTHONY :
There's no cause to thank me for that, sir.
It would have been
A poor Christian indeed
Who'd have spotted you pitching
And tossing on that raft
And not given the alarm.

TODD :
There's many a Christian would have done just that
And not lost a wink's sleep for it, either.

(A ragged BEGGAR WOMAN suddenly appears)

BEGGAR WOMAN  :
(Approaching, holding out bowl to ANTHONY, sings)
Alms!... Alms!...
For a miserable woman
On a miserable chilly morning...

(ANTHONY drops a coin in her bowl)

Thank yer, sir, thank yer.

(Softly, suddenly leering in a mad way)

'Ow would you like a little squiff, dear,
A little jig jig,
a little bounce
Around the bush?
Wouldn't you like to push me crumpet?
It looks to me, dear,
Like you got plenty there to push.

(She grabs at him.
As ANTHONY starts back in embarrassment, she turns instantly and pathetically to TODD, who tries to keep his back to her)

Alms!... Alms!...
For a pitiful woman
Wot's got wanderin' wits...
Hey, don't I know you, mister?

(She peers intently at him)

TODD :
Must you glare at me, woman?
Off with you, off, I say!

BEGGAR WOMAN :
(Smiling vacantly)
Then 'ow would you like to fish me squiff,
Mister?
We'll go jig jig,
A little--

TODD :
(Making a gesture as if to strike her)
Off, I said. To the devil with you!

(She scuttles away, turns to give him a piercing look, then wanders off)

BEGGAR WOMAN :
(Singing as she goes)
Alms!... Alms!...
For a desperate woman...

(Music continues under)

ANTHONY :
(A little bewildered)
Pardon me, sir, but there's no need to fear the likes of her.
She was only a half-crazed beggar woman. London's full of them.

TODD :
(Half to himself, half to ANTHONY)
I beg your indulgence, boy.
My mind is far from easy,
For in these once-familiar streets I feel the chill of ghostly shadows everywhere.
Forgive me.

ANTHONY :
There's nothing to forgive.

TODD :
Farewell, Anthony.

ANTHONY :
Mr. Todd, before we part--

TODD :
(Suddenly fierce)
What is it?

ANTHONY :
I have honored my promise never to question you.
Whatever brought you to that sorry shipwreck is your affair.
And yet, during those many weeks of the voyage home,
I have come to think of you as a friend and,
If trouble lies ahead for you in London...
If you need help-- or money...

TODD :
(Almost shouting)
No!

(ANTHONY starts, perplexed, TODD makes a placating gesture, sings quietly and intensely)

There's a hole in the world
Like a great black pit
And the vermin of the world inhabit it
And its morals aren't worth
What a pig could spit
And it goes by the name of London.

At the top of the hole
Sit the privileged few,
Making mock of the vermin
In the lower zoo,
Turning beauty into filth and greed.

I too
Have sailed the world and seen its wonders,
For the cruelty of men
Is as wondrous as Peru,
But there's no place like London!

(Pause, music under, then as if in a trance)

There was a barber and his wife,
And she was beautiful.
A foolish barber and his wife.
She was his reason and his life,
And she was beautiful.
And she was virtuous.
And he was--

(Shrugs)

Naive.
There was another man
Who saw that she was beautiful,
A pious vulture of the law
Who with a gesture of his claw
Removed the barber from his plate.
Then there was nothing but to wait
And she would fall,
So soft, so young, so lost,
And oh, so beautiful!

(Pauses, music under)

ANTHONY :
And the lady, sir? did she?
Succumb?

TODD :
Oh, that was many years ago...
I doubt if anyone would know.

(Speaks, music under)

Now, leave me, Anthony, I beg of you.
There's somewhere I must go, something I must find out.
Now. And alone.

ANTHONY :
But surely we will meet again before I'm off to Plymouth!

TODD :
If you want, you may well find me.
Around Fleet Street,
I wouldn't wonder.

ANTHONY :
Well, until then, Mr. Todd.

(ANTHONY starts off down the street.
TODD stands a moment alone in thought, then starts down the street in the opposite direction)

TODD :
(Sings)
There's a hole in the world
Like a great black pit
And it's filled with people
Who are filled with shit
And the vermin of the world inhabit it...
 

ロンドンの船着場の側の通り。
小さなボートが舞台裏から現れる。
その中にスウィーニー・トッドとアンソニー・ホープと漕ぎ手がいる。
アンソニーは快活な田舎生まれの若い一級乗船員で、肩にダッフルのバッグをかけ吊るしている。
トッドはがっしりとした体つきの40代の陰鬱な男で、言うなら、鍛冶屋か造船技師かもしれない。
彼には、いささか寒気を感じさせるような自閉的な、思い込みの激しい雰囲気がある。


〔アンソニー〕
(歌う)
僕は世界を船で旅した。その驚異をこの目にしてきた。
ダーダネルス海峡からペルーの山脈まで。
でも、ロンドンのような場所は無い!
また故郷に帰ってきたと感じるよ。
街の鐘が鳴っているのが聞こえる。よく聞いていた音が。
ああ、ロンドンのような場―――。

〔トッド〕
(冷ややかに恐い顔で歌う)
無いな。ロンドンのような場所は無い。

〔アンソニー〕
(中断されて驚いて)
ミスター・トッド?え?

〔トッド〕
(歌う)
君は若い。
人生は君に優しかった。
君はこの先学ぶだろう。

(彼らはボートの外に踏み出す。伴奏)

さあ、それぞれの道を行く時が来た。
お別れだ、アンソニー。私はバウンティフル号(商船「豊漁」)というありがたい船と私の命を助けてくれた若者のことをすぐには忘れまい。

〔アンソニー〕
そんな事、僕に感謝する事はないですよ、あなた。
あなたを見つけ、向かって行き、ボートに乗せ、不安を与えないようにした者は、「ある貧しいキリスト教徒」(聖書の「マルコによる福音書」に登場するイエスの献金箱に全財産を投げ入れた貧しい寡婦のこと)のようになれたことでしょう。実際本当にそうですが。

〔トッド〕
それだけのことをした上に瞬き程の寝る間も惜しんで目を離さずにいてくれるキリスト教徒は多いことだろうよ。

(ぼろを着た物乞いの女が突然現れる)

〔物乞いの女〕
(近寄りながら、アンソニーに器を差し出して歌う)
お恵みを!…お恵みを!…
ひどく寒い朝に凍えるひどく哀れな女に…。



(アンソニーは彼女の器にコインを落とす)

おありがとうございます、旦那様、ありがたや。

(嫋やかに、突然いやらしい狂った目つきで見て)

ほら、ちょっくらほろ酔いしないかえ?坊や。
茂みの辺りでちょっくらギシギシ、ちょっくらパンパン。
クランペット(パンケーキの一種)のようにおいしそうなあたしを詰め込んでおくれでないかえ?
分かるよ、坊や、そこでたっぷり詰め込んでやりたいって様子じゃないかえ。

(彼女はアンソニーを掴む。
アンソニーが当惑して退がり始めると、彼女はすぐさま彼女に背を向けようと努めているトッドの方に哀れっぽく振り向く)

お恵みを!…お恵みを!…
哀れな女に、くるくるぱあになった女に…。
あら、あたし、あんたを知ってるんじゃないかしらねえ、旦那。

(彼女は熱心に彼を見つめる)

〔トッド〕
何を私を睨むことがある?女。
失せろ。失せろと言っている!

〔物乞いの女〕
(虚ろに微笑んで)
さあ、あたしを浴びるほど飲ませて酔わせて下さいましな、ねえ旦那?
ギシギシやろうよ。
ちょっくら―――。

〔トッド〕
(彼女を打つ仕草をして)
失せろと言ったんだ。似合いの悪魔の所へ行け!

(彼女はそそくさと逃げる。振り向いて射るような眼差しで彼を見ると、ふらふらと去っていく)

〔物乞いの女〕
(去りつつ歌う)
お恵みを!…お恵みを!…
破滅した女に…。

(伴奏が流れる)

〔アンソニー〕
(少し途惑いながら)
でもまあ、あなた。彼女のような人間を恐れる必要はありませんよ。
彼女は半ば狂っていた物乞いの女に過ぎません。
ロンドンはそういうのでいっぱいなんです。

〔トッド〕
(半ば独り言で、半ばアンソニーに)
大目に見てくれ、君。
私の精神は安楽からは程遠い。
かつて馴染んだこれらの通りにいると、あちこちに幽霊のような影が見えて寒気を感じてな。
―――赦してくれ…。

〔アンソニー〕
赦すことなんてありませんよ。

〔トッド〕
お別れだ、アンソニー。

〔アンソニー〕
ミスター・トッド、お別れする前に―――。

〔トッド〕
(急に激しく)
何だね?

〔アンソニー〕
僕は名誉にかけて、あなたに質問はしないと約束しました。
あなたをあの気の毒な遭難に追い込んだものが何であっても、あなたには事情があるんですね。
でもしかし、故郷に帰る旅のあの数週間、僕はあなたを友達と思うようになったんです。
もしこの先ロンドンで問題があったら…助けや―――お金が必要になったら…。

〔トッド〕
(ほとんど叫んで)
とんでもない!

(アンソニーは発(はっ)として、当惑する。トッドは宥める様な仕草をして、静かな激しさを込めて歌う)

この世には穴がある。
大きな洞穴のような。
そしてその中にはこの世の害虫が巣食っている。
やつらの道徳など価値の無いもの。
豚も吐き出す。
その穴はロンドンという名で通っている。

穴の上には僅かな特権階級が居座り、
下の動物園の虫どもを嘲笑っている。
美を不浄と貪欲へと変えて。



私も―――世界を船で旅することに、この世の驚異を見ることになった。
人間の残酷さ、それはペルーと同じ程驚くべきものだからだ。
しかし、ロンドンのような場所は無い!

(間。伴奏。そして、陶酔しているかのように)

理髪師とその妻がいた。
そして彼女は美しかった。
愚かな理髪師と彼の妻。
彼女は彼の生きる理由で命だった。
そう、彼女は美しかった。
そして彼女は貞淑だった。
そして彼は―――。

(肩をすくめる)

純真だった。
もう一人、彼女の美しさを目に留めた男がいた。
表面ではご立派なお題目を唱えていた法を盗み縦(ほしいまま)にするハゲワシ。
爪の一掻きで理髪師の彼を店と家族から追い払った。
そうして、後は待つだけだった。
それで彼女は手に落ちるはずだった。
それは脆く、それは若く、それは無力で、
そして、ああ、それは美しかったのだ!

(間。伴奏)

〔アンソニー〕
それで、あなた、そのご婦人は?どうなったんですか?言いなりに?

〔トッド〕
ああ、何年も前のことだ…。
知っている者がいるかどうか。

(話す。伴奏)

さあ、行ってくれ、アンソニー。頼むよ。
行かなくてはいけないところがある。見つけなくてはいけないものがあるんだ。
さあ、一人にしてくれ。

〔アンソニー〕
でも、きっと僕達はまた会えますよね。僕がプリマスに行ってしまう前に!

〔トッド〕
もし君が望むなら、容易(たやす)く私を見つけられるだろう。フリート街の辺りでね。
疑い無いだろう。うろうろするつもりは無いよ。

〔アンソニー〕
いいでしょう。ではその時まで、ミスター・トッド。

(アンソニーは発って通りを行き始める。
トッドは少しの間一人で考え込んで立っているが、それからアンソニーと反対の方角へ進み始める)

〔トッド〕
(歌う)
この世には穴がある。
大きな洞穴のような。
そしてそこは肥にまみれた輩で満ちている。
そこにはこの世の害虫が巣食っている…。

 




















※ring「@(鐘・鈴などが)鳴る。Aぐるになる」
僕は何かしらの計画のぐるになるだろう。


※place「場所」=price「価値がある」
ロンドンのように価値の無いものは無い。











 
※good ship「@良い船A善意」
※life「命」=leaf「歯車の歯」
(世の中に)善意が多いことと、私の歯車を引き止めた若者の事をすぐには忘れまい。



警告しないで下さいね。
※alarm
後にトッドがある警告をすることを暗示している。

(トッドを助けたおかげで)一瞬も眠れなくなるキリスト教徒も多いことだろう。

















※crumpet「@お菓子の一種A(俗:主に性の対象としての)女性」















お前か、えらいことになったな、妻よ!
※Must you glare at me, woman?
=Must you, great, me(=my) woman.






※似合いの悪魔はトッドであるいう皮肉な場面。











この文は全体的に、
心配することはありません。
彼女のような人はいます。
と言っている感じがある。








※ルーシーに謝罪しているかのような文になっている。

何をしても無駄ですよ。赦されません。
※トッドがこれからすることに対して言っているかのような暗示の文。










※affair「事情(主に色恋沙汰のこと)」
あなたを遭難に追い込んだのは痴情のもつれですね。
※lie「@置かれて存在するA嘘をつく」
もしこの先ロンドンで困った人があなたに嘘をついたら…。
ミセス・ラヴェットのことを暗示している。




※hole「穴」=hall「邸宅」
※pit「@窪みA牢獄の房」
世間には大きな邸宅がある
暗くて大きな牢獄のような。
そしてその中にはこの世の害虫が巣食っている。
やつの道徳など価値の無いもの。豚も吐き出す。
※make mock of「@嘲笑うA騙す、偽る」
邸宅の上階(うえ)には人権を僅かしか与えられていない者が住み、下階(した)の害虫に偽りの顔を見せている。
美女を穢れた貪欲な者へと変えた者に。
ジョアンナと判事のこと。最後の一節はルーシーのこと。
ロンドンのように価値の無いものは無い。















※plate「看板」=pride「群れ」
トッドの看板(店)と群れ(家族)のダブルミーニング。
彼女は身を持ち崩してしまうだろう。
※fallには「堕落する」の意味もある。














※something I must find out.
「見つけなくてはいけない人」
「見つけることになる物」
ルーシーと剃刀のこと。






※wonder「疑う」=wander「さまよう」を連想させている。














 
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